アシュアランスネットワーク設計原理とその応用

Last-modified: 2012-07-04 (水) 12:14:10 (1909d)

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研究目的

研究の学術的背景

 近い将来の Internet of Things (IoT)の時代では、ネットワークは巨大化し、ネットワーク上の情報の流れは予測不可能であり大きく変動しているにもかかわらず、重要なサービスの停止は許されない。そのようなネットワーク環境において社会の安心安全を確保するための様々なサービスが提供される。たとえば、見守りサービスは子どもおよび高齢者の安全確保に重要な役割を果たすものであり、その実現に対する社会的要請は大きく、見守りシステムの実用化に向けた研究開発が活発に行われてきた[1]。ところが、信頼性、安全性、迅速性を低コストで実現するという見守りシステムの要求条件を満たすことは厳しく、自治体の協力無しに実用化されている例はほとんどない。我々は、ユーザからのいかなる要求にも継続的かつ安定的に応えるようにサービスをリアルタイムに提供できるアシュアランスネットワーク設計原理を確立し、見守りシステムに応用することを目指している[2]。

 アシュアランスネットワークの起源は、1990年にドイツ・フンボルト大学のMiroslaw Malek教授が提唱したリスポンシブシステムに遡る。リスポンシブシステムは、並列/分散システム環境でフォールトトレラントシステムとリアルタイムシステムの機能を統合したものである。つまり、フォールトが存在しても期待されるサービスをタイムリーに実行するシステムである。リスポンシブシステムの設計では、空間と時間の両者を考慮しながら、フォールトへの対処も仕様の一部として考えるリアルタイムシステムとして設計する方法を統一的な設計法として提示している。この設計法に基づいてシステムを設計すれば、各種フォールトのクラスに対してデッドラインまでのサービスの終了が保証できる。

 アシュアランスネットワークは、リスポンシブシステムを一般化したネットワークと捉えることができる。アシュアランスネットワークではリスポンシブシステムに組み込まれた耐故障及び実時間に関する技術だけでなく、自律、移動、知識などの技術も必要となる。アシュアランスネットワークは、ネットワークが大規模化しても、ユーザの要求やネットワーク環境が変動しても、セキュリティに対する攻撃が存在しても、想定外の故障を引き起こすフォールトが存在しても、期待されるサービスをタイムリーに実行するネットワークである。

[1] 総務省:“ユビキタスネット技術を用いた子どもの安全確保システム及び高齢者の安全確保システムに関する事例,”2007年3月28日(http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070328_9_bs1.html).

[2] Yuichiro Mori, Hideharu Kojima, Eitaro Kohno, Shinji Inoue, Tomoyuki Ohta, Yoshiaki Kakuda and Atsushi Ito, "A self-configurable new generation children tracking system based on mobile ad hoc networks consisting of Android mobile terminals," Proc. 10th International Symposium on Autonomous Decentralized Systems (ISADS2011), pp.339-342, March 2011.

 独立行政法人情報通信研究機構高度通信・放送研究開発委託研究/新世代ネットワーク技術戦略の実現に向けた萌芽的研究/アシュアランスネットワーク技術の基本概念と実証に関する研究を研究代表者らは平成22年度に実施した。その成果として、アシュアランスネットワークに関する統一的設計法[3],[4],[5]を提案している。この設計法では、ネットワークを規模が同等のサブネットワークに分割し、ネットワークが変動しても各サブネットワークはその分割構造を自律的に構成し、ネットワークに対する要求やネットワーク環境の変化への適応、セキュリティに対する攻撃および想定外の故障を引き起こすフォールトからの回復のために、各サブネットワークにリアルタイム自己組織化制御機能を組み込むものである。また、モバイルアドホックネットワーク(MANET)、無線センサネットワーク(WSN)に適用した結果、様々な事例において信頼性、安全性、迅速性の観点から優れた結果を得ている。

[3] Yoshiaki Kakuda, "Assurance networks: concepts, technologies, and case studies," Keynote Speech & Invited Paper, Proc. Symposia and Workshops on Ubiquitous, Autonomic and Trusted Computing (UIC-ATC 2010), Second International Symposium on Multidisciplinary Emerging Networks and Systems (MENS2010), pp.311-315, October 2010.

[4] Yoshiaki Kakuda and Miroslaw Malek, "A unified design model for assurance networks and its application to mobile ad hoc networks," Proc. 10th International Symposium on Autonomous Decentralized Systems (ISADS2011), 10th International Workshop on Assurance in Distributed Systems and Networks (ADSN2011), pp.637-644, March 2011.

[5] Yoshiaki Kakuda, Tomoyuki Ohta, and Ryotaro Oda, "A methodology for real-time self-organized autonomous clustering in mobile ad hoc networks," Concurrency and Computation: Practice and Experience, Wiley, to appear. (http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cpe.1792/abstract)

◆仝Φ羇間内に何をどこまで明らかにしようとするのか

 本研究では、多様なサービス要求・ネットワーク環境およびそれらの急激な変動、想定外の故障を引き起こすフォールト、セキュリティに対する攻撃が起こってもリアルタイムにサービスを提供できるネットワークの実現を目指すためにアシュアランスネットワーク設計原理を確立するとともに、見守りシステムなどに応用することにより、アシュアランスネットワーク設計原理の有用性を明らかにすることを研究目的とする。研究目的を達成するために、設計原理を構成するネットワーク分割構造自律構成技術、リアルタイム自己組織化制御技術などの要素技術を有機的に統合するとともに、それに基づく児童や高齢者の活動を持続的かつ安定的に見守るシステム技術などの研究開発を推進し、アシュアランスネットワークが満たすべき性質を評価する。

 当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

 近い将来のネットワークではスマートフォンがトラフィックの大半を占めるようになり、さらにIoTの増加が予想されている。このようなネットワーク環境では予測できないトラフィック変動が常時発生する。アシュアランスネットワーク設計原理はネットワーク環境の変動に基づいて構築されているので、このような動的なネットワークに有効であることが学術的に独創的な点である。また、アシュアランスネットワーク設計原理は想定外の故障やセキュリティへの攻撃もネットワーク環境の変動で捉えた統一的設計原理なので、適用範囲が広いことも特色である。

 無線メッシュネットワークを実装した事例は多いが、MANETを実装した事例は少ない。特に、我々の知る限り、MANETに基づいた見守りシステムの実装事例は、研究代表者らが2007年に実施した広島市児童見守りシステムモデル事業で構築した見守りシステム以外には無い[6]。本研究は、モデル事業の知見と経験を活かして、さらに、MANETにおける分割構造自律構成技術、リアルタイム自己組織化制御技術などの要素技術を統合したアシュアランスネットワーク設計原理を見守りシステムへ応用し、見守りシステムの要求条件を満たすものであり、社会的意義は大きい。

[6] Atsushi Ito, Yoshiaki Kakuda, Tomoyuki Ohta, and Shinji Inoue, "New safety support system for children on school routes using mobile ad hoc networks," IEICE Transactions on Communications, vol.E94-B, no.1, pp.18-29, January 2011.

アシュアランスネットワーク設計原理

 ネットワーク分割構造自律構成技術およびリアルタイム自己組織化制御技術に基づいたアシュアランスネットワークの統一的設計法の概要は下記の(1)-(4)の通りである[7],[8]。統一的設計法の概念を図1および図2に示す。ネットワーク分割構造自律構成技術は次の通りである。(1) ネットワーク環境が変動してもネットワークの規模を上限と下限の間に収めるように互いに重ならないサブネットワークに分割された構造を各サブネットワークは自律的に構成する。規模が上限を上回る場合はサブネットワークを分割し、規模が下限を下回った場合は隣接するサブネットワークと統合して、規模が上限と下限の間に収まるように維持する。このように分割構造は維持されるが、規模がほぼ等しくなるようにサブネットワークの規模を増減させることにより、スケーラビリティを高める。例えば、ネットワーク環境要因の変化が大きい領域を含むサブネットワークの制御負荷は大きくなるので、その規模は小さくする。

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図1 ネットワーク分割構造自律構成

 また、各サブネットワークに組み込んだリアルタイム自己組織化制御機能は次の通りである。(2)ネットワーク環境の動的変化は正常状態間の遷移でモデル化する。動的変化はサブネットワークにおいて得られる局所情報に基づいて自律的に認識し、その動的変化に適応するようにリアルタイムに自己組織化制御を実行する。(3)セキュリティに対する攻撃はネットワーク外部からのイベントに起因する、正常状態から異常状態への遷移でモデル化する。攻撃はサブネットワークにおいて得られる局所情報に基づいて自律的に認識し、攻撃からの回復のためにリアルタイムに自己組織化制御を実行する。(4)想定外の故障を引き起こすフォールトはネットワーク内部からのイベントに起因する、正常状態から異常状態への遷移でモデル化する。フォールトはサブネットワークにおいて得られる局所情報に基づいて自律的に認識し、フォールトからの回復のためにリアルタイムに自己組織化制御を実行する。このようにネットワーク環境の動的変化、セキュリティに対する攻撃、故障を引き起こすフォールトは、すべて環境変動に基づいてモデル化されるので、統一的設計法になっている。各サブネットワークは互いに重ならないのでサブネットワーク内の環境変動が異なってもそれぞれに適したリアルタイム自己組織化制御を実行できる。

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図2 リアルタイム自己組織化制御

 (1)-(4)で示したネットワークの要因による時間的及び空間的な変化に対する耐性をアシュアランスと考え、アシュアランスの評価尺度はこれらの要因に基づくネットワーク環境の変化に対するパフォーマンスの安定度と捉えると、パフォーマンスを多様な環境、環境の変化、空間に対して積分を取ることで導出することができる。従って、アシュアランス性が高いネットワークは環境の時間的及び空間的変化が起こった場合においてもパフォーマンスを高く維持できるものと考えられる。

[7] 角田良明, "アシュアランスネットワーク設計方法論," 電子情報通信学会2011年ソサイエティ大会ネットワークソフトウェア特別ポスターセッションBS-8-7,pp.S134-S135, 2011年9月16日.

[8] Yoshiaki Kakuda, Tomoyuki Ohta and Miroslaw Malek, "Self-Organizing Real-Time Services in Mobile Ad Hoc Networks," Distributed, Embedded and Real-Time Organic Systems (Editors: Teresa Higuera-Toledano, Uwe Brinkschulte, Achim Rettberg),Springer, to appear.


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